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[vsolj-news] vsolj-news 320: V404 Cygni in outburst



Subject: vsolj-news 320: V404 Cygni in outburst
VSOLJニュース(320)
もっとも近いブラックホールを持つ連星系、はくちょう座V404のアウトバースト

          著者:大島誠人(兵庫県立大学西はりま天文台)
          連絡先:ohshima@nhao.jp

 X線新星、と聞くとどんな天体を思い浮かべるでしょうか?X線や新星という名
前は耳にしたことがあるかたでも、この二つがつながった「X線新 星」となると
なじみがない人も多いかもしれません。
 X線新星は、中性子星またはブラックホールが通常の恒星と近接連星をなして
いる系で起こる活動現象の一つです。二つの星の間の距離が非常に近い 連星系
の常で、恒星の外層は中性子星やブラックホールへ向かって流れ出しており、円
盤を介した降着を示しています。これは、矮新星をはじめとする 激変星で起き
ていることにそっくりですが、主星が白色矮星ではなく中性子星やブラックホー
ルなどより密度の高い天体であるという違いがあります。
 このような円盤での降着現象も激変星の場合と同じく、安定して降着するので
はなくときどき急激に物質が降着するフェイズを持つことがあります。 激変星
の場合これは矮新星アウトバーストとして観測されます。しかしX線連星の場
合、中心天体がより高密度であるために円盤が形成されている半径 の重力ポテ
ンシャルの深さは激変星の場合よりはるかに深くなります。そのため、矮新星の
場合と比べてエネルギーの高いX線を主に放出します。その ため、X線新星と呼
ばれます。新星と名がついているものの、いわゆる新星爆発とは別物であること
にご注意ください。もっとも、このX線の一部は円 盤に再び吸収されて再放射
されたり、円盤からシンクロトロン放射が放射されたりすることにより、可視光
でも明るくなります。このようなブラック ホール連星における大きな変動がと
らえられたケースとして、いて座V4641があります(VSOLJニュース 90)が、後
述のとおり今回明るくなったはくちょう座V404でもやはり同様と思われる変動が
報告されています。
 はくちょう座V404は1938年に発見された古い新星です。その後しばらくの間は
あまり注目を集めることもなかった天体ですが、1989年に X線衛星「ぎんが」が
X線で明るくなっているところを発見し、この天体の増光が新星爆発ではなくX
線新星のアウトバーストであることを確認しまし た。このアウトバーストの際
に可視光でも再び12等まで明るくなり、各地で観測がなされました。その後の研
究で、この系の持つ高密度天体は中性子 星ではなくブラックホールらしいこと
がわかり、ブラックホール連星としても知られるようになりました。現在のとこ
ろ、太陽系からもっとも近いとこ ろにあるブラックホールだと考えられています。
 X線新星であることが明らかになったあとに過去に撮影されたプレートの捜索
がなされ、さらに数回のアウトバーストが起きたことが確認されてお り、突発
的天体のモニター観測をしている観測者によって次のアウトバーストが待たれて
いたものです。

 今回のアウトバーストは、6月15日にX線衛星のSwiftによってV404 Cygの位置
にX線で明るくなっている天体があると報告されたことに始まります。これを受
けたアテネ国立大学のKosmas Gazeas氏らによって可視光でのフォローアップ観
測がなされ、12.65等(R等級)まで明るくなっていることが明らかにされていま
す。、このフォ ローアップ観測の終了時には15.43等(R等級)まで暗くなって
いましたが、その後ベルギーのE. Muyllaert氏によって6月16.1668日に、16.18
等(CCDノンフィルター)で見えているとの報告がされました。これを受けて、
フランス のD. Barrett氏が追観測を行い、13.1等(V等級)とさらに明るくなっ
ていることを報告しました。Muyllaert氏の観測は一旦暗くなったところ をとら
えたものだったようです。

 その後この天体はさらに明るくなり、眼視等級でときに11等台に達することも
あるようです。やや赤い色をしているため、CCDノンフィルターや R等級などで
はさらに明るい数字が報告されています。また、短いタイムスケールで大きな変
動を示す天体なため、特にアウトバースト直後は1〜2時 間で3等級ほど明るさを
変化させることもありタイミングが悪いと16等くらいまで暗くなってしまってい
ることもありましたが、アウトバーストから 数日が経過しこのような大きな変
動はすこし収まってきたようです。眼視観測などでこの天体を見ようと思う方に
は、これからがちょうど狙い目といえ るでしょう。

参考文献
vsnet-alert 18735, 18737, 18738
VSOLJニュース 90「マイクロクエーサー V4641 Sgr の突発増光」

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